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日本農業経営学会
 

会長からのご挨拶


 我が国の農業経営は過去20~30年の間に急速な変貌を遂げています。1ヘクタール前後の耕地を耕作する小規模経営が多数を占めていた状態が様変わりし,100ヘクタール以上に達する大規模経営の出現がもはや特別な話題ではなくなりました。経済的観点から見た農産物の序列も変化しています。「日本農業の大宗」を占めると言われた米の粗生産額シェアは2割を切り,主役の座を畜産と野菜に明け渡しました。情報通信技術の活用など,新たな技術を積極的に採り入れる動きも活発です。このような経営では生産性と品質の双方の向上をはかり高収益の実現を追求しています。農業生産を足場に加工・販売・飲食等に事業の範囲を広げて高付加価値生産を実現する六次産業化の取り組み,さらに複数の農業経営をネットワークで結ぶ広域的な事業展開も注目されています。


 日本農業経営学会の使命は,このような前進的な農業経営の活動を多角的に分析し,その発展につながる知見を提供することにあります。零細で停滞的とされてきた我が国の農業経営が今日,変革期を迎えていることは疑いありません。農業経営の発展方向を見通しながら,経営革新に向けた取り組みを学術研究の側面から支え,多くの人々が期待を寄せる日本農業の発展に寄与する――私達が最も重視するのはこの点です。


 他方,我が国における農業経営の動きは前向きなものばかりではありません。最大の問題は1990年代から続く農業生産の総体的衰退です。あちこちで耕作放棄地が発生し,農地の総面積が減少するという傾向が日本農業に暗い影を落としています。この背後には農業者の減少と高齢化の進行があることは改めて言うまでもありません。農業を志す若い世代が増えているものの,高齢引退者等の農業者の大量離脱をカバーできるかと問えば,そこには大きなギャップがあることを否めません。農業経営の廃業をはじめとする後退的な経営行動の広がりを抑え,経営資源の保全と利用を支えるシステムをどのように構築するか,こうした守りの視点に立つ研究も現代日本の農業経営研究にとって重要な意義をもつのです。


 ところで,我が国の農業経営のあり方は,それを取り巻く経済,さらには農村社会のあり方と密接に関連しています。後者の農村社会との関係について触れると,日本農業は長らく「イエの農業」「ムラの農業」として営まれてきました。このような「伝統社会に埋め込まれた農業経営」は古今東西,多くの国々で共通に認められる歴史的事実ですが,農業経営と伝統社会の関係が緊密であった点,そして比較的最近までそれが持続した点に,我が国農業の特徴を見ることができます。では,農業経営と農村社会は今後,どのような関係を結ぶのか,それとも分離していくのでしょうか。このことは農業経営の環境マネジメント,ひいては農業と農村の長期的趨勢を考える上で不可欠の論点であり,農業経営研究の視野がこのような広がりをもつことをご理解いただきたいと思います。


 以上述べたことがらの全てについて農業政策が関わっており,1990年代以降,農業政策による農業経営への影響が強まっています。上記と重ね合わせると,農業経営は伝統社会との関係を弱める一方,農業政策との関係を強化しつつあると見ることも可能ですが,現実の動きは単純ではありません。農業政策は複数の回路を通じて農業経営に影響を及ぼしており,私達は各回路の作用メカニズムとそれらの全体をとらえなければなりません。その上で,農業経営とその集合としての日本農業の発展を支える政策のあり方について積極的に提言していくことが求められています。


 最後に,農業経営研究のグローバル化について触れておきたいと思います。今日の学術研究はグローバル化に向けたさまざまな対応を迫られています。農業経営研究もその例外ではあり得ず,国際的通用力をもつ学術研究活動が求められます。その際に最も重要と思われるのが研究課題の通用力です。これまでの研究成果は主に国内の農業関係者や関連領域の研究者に向けて発信されていました。しかし,海外に向けた情報発信が行われるようになると,その再吟味が迫られます。農業経営研究の多くは各国農業のローカルな問題を扱いますが,そのように設定された研究課題が国際的な通用力をもちうるのかが鋭く問われるようになるのです。日本の農業経営に関する知見が海外の農業経営研究にとってどのような意味をもつのか,説得力のある説明が求められます。これに応えるためには,やはり国際的通用力をもつ農業経営理論の構築が必要です。ローカルな分析力とグローバルな通用力を併せ持つ学問として,日本の農業経営研究は一段のステップアップを迫られているのです。



日本農業経営学会 第19期会長 柳村 俊介
 

日本農業経営学会の目的

本会は,農業経営に関する理論及びその応用を研究し,もって学術・文化ならびに農業経営の発展に寄与することを目的とする。
 

日本農業経営学会の沿革

1948年本学会の前身である「農業経営研究会」が発足。
1964年機関誌「農業経営研究」を刊行。
1978年会の名称を「日本農業経営研究会」に改める。
1983年「日本農業経営研究会」から「日本農業経営学会」に移行。
現在に至る
 

日本農業経営学会の活動内容

  1.     年1回研究大会を開催し、シンポジウムと個別研究発表会およびその他を併せて行う。
  2.     機関誌「農業経営研究」を年4回発行する。発行月は6月、9月、12月、3月とする。
  3.     農業経営研究上の顕著な業績に対し学会賞を授与する。
  4.     その他目的を達成するために必要な事業を行う。
 
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