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日本農業経営学会
 

会長からのご挨拶


 新型コロナウイルスの蔓延は,私たちの生活に大きな影響を与えました。農業経営においても,業務用需要の減少や,生産場面では労働力確保が困難となるなど,経営運営に様々な問題が生じています。

 一方,人の移動が大きく制約された中でも物流は確保されたため,食料確保という点での大きな混乱は生じませんでした。ただ,結果として食料パニックは起きなかったわけですが,世界規模での経済活動の停滞は,改めて,農畜産物(飼料を含む)の安定した供給体制を構築していくことの重要性を示すものと言えるでしょう。


 日本農業経営学会は,「農業経営に関する理論及びその応用の研究を通して,学術・文化,ならびに農業経営の発展に寄与すること」を目的としています。1948年に本会の前身である『農業経営研究会』が発足し,以降,約70年間に渡って活動を続けてきました。この間,農業経営を取り巻く市場環境や制度・政策は大きく変化し,それらに適応すべく,農業者は様々な対策を講じてきました。また,そのような状況変化に応じて,農業経営学の問題認識や分析対象,研究手法も変化してきています。


 今日の農業における最大の問題は,労働力の減少にいかに対処していくかにあると言えるでしょう。日本において人口減少と高齢化が進展していることは周知の通りです。中でも農村地域はその先端を進んでおり,家族経営の前提となる農家(イエ)の継承も困難になりつつあります。日本,海外を問わず,家族経営は農業生産にとって望ましい形態とされてきました。しかし,少子化社会のもとでの家族経営の最大の問題は,子供がいないなどの理由から経営の継続性が必ずしも保障されないという点であり,今後,経営継承・事業継承に関わる課題はいっそう重要になると思われます。そして,このことは,農村社会の維持,農地や水利など生産基盤の確保,技術の継承をどう図っていくのかという問題にも直結します。

 一方,新型コロナウイルスの蔓延は,大都市への一極集中に対する反省や,新しい生活様式,働き方の変革を要請しています。急速な人口減少が進む農村において,いかに経済を活性化させ,地方創生を図っていくのか,そのために農業における新しい生産方式やビジネスモデルをどう構築していくかも,今後,農業経営研究の大きなテーマとなると思われます。


 食料供給主体として家族経営と同様に期待されるのが雇用型法人経営やサービス事業体,あるいは,企業による農業参入ですが,ここでも人材をいかに確保するかが大きな課題となります。それには,就業条件の基礎となる十分な労働報酬の提示とともに,適切な雇用管理,人材育成対策の実施が求められます。賃金負担力が他産業に比較して必ずしも高くはない農業経営が,若い世代にとって魅力ある就業場所となるにはどのような条件が具備されるべきか,また,その経済的,技術的,社会的な条件は何かについて本格的な検討が必要でしょう。


 人材育成は,農業経営だけでなく,私たち学会という学術団体にとっても重要なテーマです。その最も中心となるものが学会誌への投稿であることはいうまでもありません。多くの研究者が,論文を投稿し,審査過程において査読者の指摘を受け,それへの対応を進める中で,学術論文としての完成度を高めるとともに,研究の進め方やアイデアについての示唆を得てきました。ダブルブラインドという投稿者,査読者が誰か分からないという仕組みのもとでの真摯な指摘やそれへの回答を行うことは,学問の水準を高めていく上で,また,若い研究者の育成にとって不可欠であると言えます。

 しかしながら,そのような学会にとって最も基礎的活動と言える論文投稿,特に,本論文への投稿数が必ずしも多くなってはいないということは,深刻に捉えるべき問題です。これには,研究者への業績評価指標の多様化や,若い研究者の数の減少など様々な要因が作用していると思われます。しかし,厳しい指摘を受けた論文が受理され掲載に至ったときの喜びや,一方では,査読者として指摘を行った論文が大きく完成度を高めて再投稿されてくるのを見ると,改めて,論文査読というシステムの社会的意義を感じずにはいられません。この点では,研究活動のいわば基礎としての論文投稿の活性化に向けた取り組みを,学会としても改めて積極的に取り組んでいきたいと思います。


 農業経営学の特色の一つに,フィールドサーベイを主要な研究手法としていることが挙げられます。机上での考察に止まらずに,営農現場の農業者の皆さんや,流通・販売業者,関係機関の担当者の方々と会話し,その意識・行動の実態を捉え,雰囲気を肌で感じるとともに,そこから自らの問題意識を設定していくという研究スタイルをとってきたわけです。そして,そのような手法に基づく実態データや知見を農業経営や農村社会の特質,あるいは,先行指標として捉え,その理論化,一般化を図っていくという取組を実施してきました。

 国内外の関連分野の研究をサーベイするとともに,実態認識に基づくオリジナルな仮説を提示し,それを具体的データから検証していく中で,農業経営の発展方策や農業政策のあり方,農村社会や地域経済の方向を提案していくことが私たちの使命とも言えます。また,それらを通して,農業経営学の観点から社会に貢献することが出来るのではないかと考えています。


日本農業経営学会 第20期会長 梅本 雅
 

日本農業経営学会の目的

本会は,農業経営に関する理論及びその応用を研究し,もって学術・文化ならびに農業経営の発展に寄与することを目的とする。
 

日本農業経営学会の沿革

1948年本学会の前身である「農業経営研究会」が発足。
1964年機関誌「農業経営研究」を刊行。
1978年会の名称を「日本農業経営研究会」に改める。
1983年「日本農業経営研究会」から「日本農業経営学会」に移行。
現在に至る
 

日本農業経営学会の活動内容

  1.     年1回研究大会を開催し、シンポジウムと個別研究発表会およびその他を併せて行う。
  2.     機関誌「農業経営研究」を年4回発行する。発行月は6月、9月、12月、3月とする。
  3.     農業経営研究上の顕著な業績に対し学会賞を授与する。
  4.     その他目的を達成するために必要な事業を行う。
 
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